研究概要 |
[資料の収集・整理とデータベースの作成] 1,前年に引き続き、「平安遺文」「鎌倉遺文」といった活字化された文献を中心に、現存する起請文を網羅的に収集することをめざした。また、そこに勧請された神仏名をリストアップし、そのデータベースを作成した。また起請文に関する史料とその分析に必要な参考文献・図書を収集した。 2,研究の鍵となる重要な起請文については、金沢文庫・京都大学総合博物館・奈良国立博物館・東大寺・中山法華経寺などに赴き、実地調査を行うとともに、起請文を生み出した歴史的・文化的背景に関わる調査を行った。 3,起請文についてのこれまでの研究文献を網羅的に収集することを試み、それを踏まえた研究史の整理を行った。 [考察と成果] 1,収集した起請文についてその分析を進め、その作業を通じて中世人に共有されていたコスモロジーを抽出することを目指した。その結果、従来指摘されることのなかった、古代・近世いずれとも異なる、日本中世固有の世界観を解明することに成功した。 2,起請文は中世文書の代表とされるが、ある事柄を神仏に誓約する形式は古代から現代まで、時代と地域を問わず広くみられる現象である。そうした事実を踏まえて、日本中世の起請文をこの列島を超えた歴史的・文化的コンテクストのなかに位置づけるべく研究を行った。その結果、現代人が常識としてもっている神-仏の区分が中世では成り立たないことなど、いくつかの画期的な成果を収めることができた。 3,本年度、この研究成果の一環として、『起請文の精神史』(講談社)が刊行された。刊行直後、「読売新聞」「産経新聞」において書評が掲載されるなど、その内容に対して大きな反響があった。 4,起請文の分析を通じて、キリスト教世界やイスラム教世界などのグローバルな諸宗教現象のなかに、神仏習合現象を位置づけていく視座と方法を見出すことができた。
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