研究課題/領域番号 |
17520068
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹下 政孝 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (30163398)
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研究分担者 |
鎌田 繁 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70152840)
柳橋 博之 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 助教授 (70220192)
仁子 寿晴 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 助手 (10376519)
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キーワード | 神秘主義 / 神学 / 哲学 / シーア派 / 預言者の医学 / コーラン解釈 / 家族法 |
研究概要 |
研究目的で述べたように、歴史的にみて西暦12、13世紀に成立した各種権威的テキストは現代のイスラム世界でも読みつがれている文献の基になっている。このテキスト群を調査することはこれよりも前の時代のテキスト分析が主流であるイスラム思想研究の弱点を補うととともに、中世期から近現代へイスラム思想がどのように動いてきたかを見る際の大きな拠点となる。ただしこの時代の文献はまだしっかりとした校訂本が少なく、写本の調査が大きなウエイトを占めることとなる。全体の作業としては、その第一歩として、当科学研究費補助金によって今年度購入したArabic Manuscripts in the British Library ; Section E, Section F, Section G(神秘主義と哲学)の整理・分析をおこなった。British Libraryのアラビア語写本は上記権威的テキストはもとより特にインドを中心に流布していた著作を多く含むことが特徴である。来年度に他の地域の神秘主義・哲学・法学などの伝播とすり合わせる基礎的作業はほぼできたと思われる。 個々の研究者の成果としてはまず竹下論文「預言者の医学」で医学に関する権威的テキストの研究成果が公表された。主にコーランとハディースの抜粋から構成される預言者の医学(al-tibb al-nabawi)というジャンルは従来、ムハンマド以来ずっとそれほど姿を変えずに伝えられてきたと考えられてきたが、他のジャンルと同じようにやはり12、13世紀に転換点を持つことが指摘された。そのころに成立したギリシアに由来するガレノス系医学の要素を取り入れたテキストが権威的テキストとなり、その後の「預言者の医学」伝統の基礎となっていくのである。また鎌田の"Mulla Sadra between Mystical Philosophy and Qur'an Interpretation ; Through His Commentaoy on the "Chapter of Earthquake"ではシーア派におけるコーラン解釈・哲学・神学の融合が論じられている。このような学問間の相互作用も権威的テキスト成立前後の大きな特色の一つと考えられ、さらに調査を進めていく課題であることが判明した。柳橋『現代ムスリム家族法』では逆に現代の視点から法学の権威的テキストがどのように利用されているかの研究である。仁子他「訳注 天方性理 巻四」は明清期中国という限られた範囲ながらイブン=アラビーの神秘思想がどのように中東以外の地で権威的テキスト化するか、ということへのアプローチである。
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