研究課題
今年度は予定通り、モンペリエ学派の脈学が生気論の成立の場として機能したことを明らかにした。論文(La sphygmologie montpellieraine : le role oublie du pouls dans l'emergence du vitalisme montpellierain、Muriel Brot編になるJacques Proust追悼論文集に掲載予定)によって、18世紀における中国医学と西洋医学との交流、モンペリエ学派の脈学の展開、生気論の成立という、相互に独立に研究されてきた対象について、始めて本格的に解明のメスを入れることができた。中国脈学の影響を扱った2006年の論文では生気論的脈学の展開を十分跡付けることができなかったが、今回の論文では、1)モンペリエ生気論が初期には「トン」概念によって未だアニミズムから自由でなかったが、関係的生理的機序観によってそうした霊魂の力を想起させるものを置き換えるに到ったこと、2)この関係的見方は、モンペリエ学派の脈学を、脈-分利という狭い予診論的枠組みから広い生理学的地平へと転回させたこと、言い換えれば、脈学の文脈で生気論を繰り広げ、身体の表層と内部を結ぶ身体諸部分の生理的機i序の連関のうちに脈を位置づけ直すのに成功したこと、3)とりわけ、メニュレが中国医学の関係的見方を導入し、それをさまざまな隠喩によって示すことによってその転回は果たされ、監視する主体が排除され、身体全部分の競合・共鳴から生命が成立するという新たな生気論的見方に変わったことを、明らかにできた。この研究に当たっては、中国脈学と西洋脈学の展開を追ったMari口の大部の博士論文(2003年提出、未公刊)や、ReyやBouryのモンペリエ生気論についての研究を参照し、それらの研究の不十分な点を補うことができた。研究は、昨年度本科研費で購入した図書ならびにフランスで収集した資料によって主として進めた。広い視野からの研究を進めるべく、今年度も野沢協先生主催のフランス自由思想研究会に参加し、貴重な研究上のアドバイスを得た。
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Arichives Internationales d7Histoire des Sciences 56, 156-157