本研究は、戦時期の記念物の戦後での変容を明らかにする作業を通じて、占領期日本でのナショナルな「記憶」の構築・転換を意味づける作業を続けている。近年、兵士に関わるモニュメント研究や戦没者研究は盛んだが、歴史学・民俗学研究においては主にその扱う時期は戦時期に集中しており、戦後を扱う場合でも主に社会史的な手法が用いられ、占領期の一時史料が用いられることは少ない。あるいは、理論的寄与の大きいカルチュラル・スタディーズ等文化研究は、占領期や冷戦期に射程を伸ばしつつも、資料的な押さえが徹底的に弱く、結果として、戦後の枠組みを踏襲したまま展開している点は否めない。しかし、占領期は高次の国家政策史料が極めて豊富な時期であり、細部にわたっては未だ明らかにされてこなかった「事実」の発掘が不可欠である。本研究は昨年に引き続き、占領軍の一次史料と地域の公文書館の一次史料とをつきあわしつつ、忠霊塔や空襲慰霊塔、沖縄の納骨堂等の占領期から戦後の変遷に関わる政治文化的史料の収集につとめ、ほぼその傾向を明らかにする成果を得た。他、奄美や沖縄等、軍政下の地域についての戦後補償、モニュメント設置の経緯や言説分析を通じ、本土のナショナルな戦争の記憶の相対化及び米国の政治文化のくびきを通じた戦争の記憶構築の構造的な関わりも明らかにしつつある。この点について、韓国の宗教研究者や日本のドイツ現代史研究者とともに研究会を開き、その成果の一部について、『季刊日本思想史』(ぺりかん社)で特集号を組み寄稿した。夏には出版される見込みである。他、すでにこれまでの成果の一部としては、戦後の前提として主に戦前期の戦跡観光を扱った「「満州」ツーリズムと学校・帝国空間・戦場」や、米国戦後史研究者との科研費の成果の一部である「占領空間の戦争の記憶-国旗とGHQ-」として共同研究による著書に単著の論文を掲載、公表した。
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