本研究は、日本の戦後過程の特徴をめぐって、主に文化思想史研究の方法で再検討し、ナショナリズムの核としての戦争の事後の戦争認識に注目してきた。戦後像は、国際関係論や政治学の文脈では「日米合作」として指摘されるようになったが、本研究は、戦争の事後、過去の戦争の記憶を素材に、異文化受容としての影響と摩擦について、一次史料を収集し、言説分析として検討した。方法として主に、占領軍の英語史料(国立公文書館憲政資料室蔵GHQ/SCAP文書・米国民政府史料USCAR文書、立命館蔵GHQ/SCAP文書データベース、沖縄県公文書館USCAR文書データベース)の渉猟を通じて問題領域を発見し、ここで得た事例を地方公文書館での県庁文書史料とつきあわせ、相互のズレと解明作業を進め、異文化受容と摩擦として意味づけた。今年度は特に沖縄を含めた地域間のズレに注目し、資料を収集した(成果として『戦争の文化的記憶と占領空間』有志社、近刊予定)。論考発表は特に、戦争死者追悼に焦点をあて、米国占領軍及び日本政府の側から見た戦争死者と日本の戦後平和言説との乖離を指摘し<長雑誌論文2007>、戦前の満州ツーリズムを戦跡観光と歴史認識形成の観点から読み替えく長図書2007>、他方、東アジアの研究者が集う国際シンポジウムの場で占領期の日本の戦争死者追悼をめぐり、日米国家間の政治言説との関係に加え、アジア史に位置づけて比較検討、報告した<長学会報告2007>。異文化受容として占領期日本を捉える試みは、異言語間テクストの比較としても有効であるうえ、資料環境がようやく整いつつある現在、沖縄、奄美等米軍政下での経験も参照しつつ、ナショナリズムと戦争の記憶をめぐって、兵士や軍事文化史に限定されない、思想文化的視点を備えたより広い文脈での議論の可能性が提示された。
|