研究概要 |
平成17年度の研究の成果は,以下の2点に分けられる。 (1)シエナのサン・フランチェスコ修道院参事会室(集会室)の壁面は,アンブロージョとピエトロのロレンツェッティ兄弟によって装飾されたが,ピエトロが『磔刑』と『キリストの復活』という集会室に一般的な主題を表しているのに対して,アンブロージョは『トゥールーズの聖ルイと教皇ボニファティウス8世』と『フランシスコ会士の殉教』というめずらしい組み合わせの場面を描いている。本研究では特に聖ルイと教皇の場面で,2人が臣従礼と同じ身ぶりを示していること,またその背後で立ち会う俗人たちの中にキリストと認められる人物が含まれていることに注目し,この場面はフランシスコ会士が教皇に従属しながらも,キリストによる後ろ盾を密かに,そして直接得ていることを描き出そうとしたものであると結論づけた。『殉教』の場面については,殉教者の物質的な遺骸をイメージに置き換えて提示する役割を果たしていることを論じた。 (2)シトー会やクララ会の女子修道院聖堂の修道女席には,「キリストの受難」が強調して描かれるが,それと対比的にしばしば「キリストの花嫁」としての女性・聖女を表す図像が見られることに注目して絵画図像を分析した。ドイツ騎士団領であったヘウムノの旧シトー会女子修道院聖堂では,旧約の「雅歌」と「キリスト受難伝」が連続して細長くフリーズ状に描かれ,修道女席を囲んでいる。修道女たちが自らをキリストの花嫁とみなし,キリストの贖罪と救済の業に与ろうとすることを端的に表す図像である。またこのフリーズ状の装飾形態は,造形的なイメージを黙想に利用するのにふさわしいと考えられ,同じく横長に連続するベルティーニ兄弟による「聖カタリナ伝」浮彫(ナポリ,サンタ・キアーラ聖堂)も,当初は修道女の信仰実践に役立てられていた可能性を検討し,その図像を解釈した。
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