研究概要 |
平成18年度の研究の成果は,以下の2点に分けられる。 (1)14世紀半ばにロレンツェッティ兄弟によって制作されたシエナのサン・フランチェスコ修道院参事会室(集会室)のフレスコ画について,平成17年度より調査を進めていたが,以前に行った口頭発表も踏まえて英語論文として公刊した。内容は,フランシスコ会の宣教と殉教に関する図像を,当時のヨーロッパとアジアとの交流を考慮に入れて解釈しようとするものである。また,中世末期における物質的な物(聖遺物)とイメージとの関係の変化について指摘した。 (2)これまでヘウムノの旧シトー会女子修道院聖堂に描かれる旧約の「雅歌」連作場面など,修道女席の絵画装飾について,享受者である修道女の宗教実践を視野に入れつつ考察してきたが,これにっいてはすでに平成18年12月に研究会で口頭発表を行っており,平成19年度中に論文とする予定である。 (3)主に女子修道院に描かれた聖女伝連作についての調査を継続して行っている。作品中で,聖女,あるいは絵画や彫刻の享受者である修道女の「キリストの花嫁」という身分が強調されているという従来の解釈に加え,観想的な生と対比される活動的な生がいかに描写されているかという点に注目している。 (4)フランシスコ会の男女共住修道院であるナポリのサンタ・キアーラ修道院は,14世紀中にジョット工房などによって絵画装飾が行われたが,わずかな断片しか残されていない。現在目にすることのできる16世紀から18世紀のフレスコ画が14世紀の原作の描き直しである可能性を考慮しつつ,できるかぎりで元々の装飾プログラムの再構成を試みている。これについては,平成19年中に口頭発表した上で論文とする予定である。
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