研究概要 |
(1)ナポリのサンタ・キアーラ修道院に描かれた14〜18世紀のフレスコ画の調査を行った。現状の調査,またナポリの文化財監督局に残される修復記録や写真資料の検討により,14〜15世紀に描かれたオリジナルの壁画は,元々の図像や構図を踏まえながら18世紀にいたるまで繰り返し描き直されていたことを立証した。これにより,サンタ・キアーラ創建時の絵画図像プログラムと,その背景にある思想を明らかにした。また,中世の聖なる画像の近代における「描き直し」の具体的な例を示すことができた。この研究の成果は,第58回美学会全国大会で発表した。 (2)ナポリのドンナレジーナ聖堂の修道女席の「聖カタリナ伝」連作には,「神秘の結婚」の場面が欠けている。ドンナレジーナの壁画が制作されたのは,この図像の生成期に当たり,試行錯誤を示すいくつかの作例が知られている。これらを検討することにより,同修道女席では注文主の事情を反映して,神の栄光の賛美に結びつく世俗の結婚を重視した図像プログラムが考案されたという結論を得た。 (3)同じくドンナレジーナ聖堂に描かれる「聖エリザベト伝」を分析することにより,観想的生活を通してのみ神に近づき得るのではなく,活動的生活/慈善の行為も終末論の文脈の中で重要な意味を持つことを明らかにした。これについては,イタリアのピアチェンツァで開かれた学会で発表している。
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