ドレスデン国立絵画館にレンブラントが自身と最初の妻サスギアをモデルにして描いた絵画(以後《放蕩息子》)がある。レンブラントのドレスデンの絵画において、フォン・アーヘンの作品に芸術的な競争心を起こした可能性は十分にある。レンブラントという芸術家は、身近な芸術家はもとよりデューラーやラファエッロのようなルネサンス期の芸術家とも熾烈な競争意識をいだくことでおのれの芸術を造りあげてきた画家であったからだ。 それではどうして道徳的に糾弾されるような「放蕩息子」にみずから扮し、あまつさえ妻を娼婦に仕立てたのだろうか。レンブラントのような芸術家の場合、こうした動機にかかわる領域にまで踏みこんでいかなければ、作品の意義に深く迫ることはできない。 「居酒屋の放蕩息子」を描いた他の画家の作品はもとよりレンブラントのデッサンにおいても、娼婦が客にこびを売ることもなく、いやそれどころか見ようによっては客に称賛されているような姿勢をとる娼婦は他にはみあたらない。こうみえるのも、かの女の背中がほとんど正面向きあることとも無関係ではない。しかも、振り返る頭部は極端な角度までねじられている。いかにも不自然である。そこには妻サスキア、ひいては女性にたいするアンビヴァレントな感情がレンブラントのなかにあったからではないかと思わせる。 アムステルダム大学図書館、ロンドン大英博物館などに遺されている財産目録、売立目録を調査した。くわえて前年に引き続きデン・ハーグの王立美術研究所(RKD)、レイデン大学図書館に保存蒐集されている、美術作品の写真資料を調査し、視覚資料の蒐集に努めた。さらに、国内でも西洋美術館をはじめとする関連の図書館などで研究文献を調査した。調査はなお十分とはいえず、継続して調査研究を行う。
|