課題に関わる平成19年度の研究実績について以下に概略を記す。 前年度に行けなかった海外調査を6月に実行した。米国東海岸の調査は、ボストン美術館、イエール大学付属美術館、フィラデルフィア美術館、フリーア・ギャラリー、メトロポリタン美術館、およびニューヨークの個人所蔵家宅で行なった。国内は主として近畿圏を回ったが、残っていたMOA美術館などの調査も行なった。 新規取得データを整理しながら、既撮スライドのデジタル・データ化を進め、予定の作業を終えた。これらのデータを元に、「所載」情報の抽出のための文献目録の再整備、および初期歌舞伎舞台の細部画像情報を文字化した作品目録一覧を作成した。一覧には、小屋囲いの材質から、櫓、鼠木戸、桟敷、舞台の構造といった基本データはもとより、毛槍や三つ道具の飾り方や数、あるいは櫓幕、水引幕などの意匠まで各40項目以上を抽出した。人物についても、カブキモノ、茶屋のかか、猿若、の衣装、持物、所作を明らかにするとともに、「はな」をめぐる座の者や囃子方、楽器なども明示した。カブキモノについては、小屋の内外を中心に、その他の風俗画に描かれる特徴的な姿も抽出した。 現在、知りうる限りの初期歌舞伎図に関する最大のデータ・ベースを作成し、報告書に掲載するとともに、さまざまな分析を行なった。奈良絵本系の小画面絵画の特質、大画面に描かれた阿国歌舞伎およびその追随者たちの初期の芸態を描くもの特質、洛中洛外図、京名所図、四条河原遊楽図など場所を特定する作品に描かれた歌舞伎舞台とその描写の特質、あるいはカブキモノの所作の意味について、それぞれ多くの新知見を得た。
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