本研究は、近世初期に特異な活動をした無頼の徒カブキモノと、そして彼らの姿を舞台に取り上げることで成功した初期の歌舞伎について、できるだけ多くの図像を収集し、整理し、考察するものである。 初期歌舞伎の舞台を描く絵画で、図像データを収集した作品は、歌舞伎図(巻子・冊子等)7件25場面、歌舞伎図(屏風)18件19場面、洛中洛外図31件43場面、京名所図14件20場面、四条河原図9件16場面、総計79件123場面である。また、カブキモノの図像は、上記の作品に描かれた小屋の内外に見られるものに、それ以外の祭礼図や遊楽人物図に描かれたものを加えて、概算で約2000人の図像を収集した。 これらは通常の図版ではほとんどわからないものであり、とくに洛中洛外図以下め作品については、美術史、芸能史を問わず従来の研究では、そのごく一部しか用いられていないものである。さらに、西尾本「四条河原図」、サンリツ服部美術館本「遊女歌舞伎図」を初め、まったくの未紹介作品も相当数含まれている。また、初期の歌舞伎舞台を描く絵面における画中文字を「画中文字資料」としてすべて公刊した。 この結果、ロビー形式など舞台構造の推移、毛槍と三つ道具など櫓上の武具飾りの置き方の推移、楽屋描写のある作品の特色、「茶屋遊びの場」における見得の分類とその意味、多様な纏頭(はな)とその形態上の特色、主要な制作工房の抽出、図像伝播の経路などにおいて興味深い新事実を数多く見出した。
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