本年度は、都合3ヶ年で完結する計画の「鶴林寺太子堂内陣荘厳画の図様と年代」研究の初年度であり、以下の諸項目を実施した。 (1)来迎壁表裏の図様復元と表現・技法の検討 この二面の図様は、従来でも概要が知られていたが、最新式赤外線デジタル撮影装置の使用により写真では確認しづらい要素も明瞭に現われ、さらに詳細なデータを得ることができた。すなわち、一画面を約500カットに均等割りして撮影したデータをパソコン上で合成・解析し、その全図を基に、登場する尊像毎の部分拡大撮影を行い、様式の検討に十分な資料を得ることができた。また、蛍光X線分析等によって絵具の成分を分析し、制作当初の彩色技法を探る糸口を得た。 (2)四天柱の図様復元と表現・技法の検討 四天柱の図様は従来部分的にしか報告されていなかったが、これは来迎壁に比べ黒化が激しく、また灯明油の厚い付着で赤外線の透過力が及ばなかったことなどに起因している。そこで、これらにも上記と同様の調査を実施し(但し、各柱の分割は約250カット)、図様や様式の検討に十分な資料を得ることができた。 (3)比較作品の調査による表現・技法の検討 鶴林寺太子堂内陣荘厳画は、通説では天永三年(1112)建立と同時期制作とされている。しかし(1)・(2)の検討結果を踏まえ、時代的には鎌倉時代、絵師については奈良地方にも考察範囲を広げるべきことが明確となった。石山寺多宝塔柱絵、斑鳩寺聖徳太子勝曼経講讃図、新知恩院や聖衆来迎寺の阿弥陀聖衆来迎図などの調査を実施し、表現・技法の検討を行った。 以上の結果を踏まえ、来年度は、四天柱筋上の小壁、側柱筋上の小壁、聖徳太子像壁画と、これらの比較作品についてさらに検討を進めたい。
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