研究課題
基盤研究(C)
インド古代において、世俗美術としての絵画の主体をなしていた壁画は、中世を迎えて大きく方向を変えて展開した。各地方の王朝が盛んにヒンドゥー教寺院を造営し、壁画も寺院造営の一環として寺院建築に描かれることが多くなった。特に南インドでは、寺院が壁画で飾られた。中世美術は、インド各地で大凡11世紀頃に制作が盛んになると共に様式の完成期を迎えた。タンジャヴールに残るインド屈指のヒンドゥー教大寺院であるブリハディーシュヴァラ寺は、11世紀初めに創建され、建築・彫刻・絵画を総合した、南インド中世ヒンドゥー教美術を代表する作例と言える。本殿回廊には、主に南インドに残るインド中世壁画の中にあって、大画面に説話的主題を扱った作例が最も多く保存されている。従って、南インドにおいて中世壁画がどのように完成したかが、ブリハディーシュヴァラ寺壁画から判然と窺える。特質は、大きく二つの点が指摘出来る。一つは、人物や動物の描写が、中世固有の抽象化・単純化の傾向を顕著に示しているものの、北インドの中世様式に比べて、古代壁画の伝統を相当色濃く保存していることである。もう一点は、構図において部分的に人物・動物の重なりが現れているけれども、古代のように説話的主題の諸場面を画面の各所に配置しながら、大画面を構図上統合して纏め上げるのでなく、大画面を階層的に分割して、説話的主題を表現していることである。つまり、諸場面を連結して大画面を統一的に構成していた古代壁画と異なり、大画面を有機的に統一することがなくなり、言わば区画の寄せ集めとして大画面が成り立っているのである。かかる点に南インド中世壁画の特質が明確に現れていると考えられ、以降の南インド壁画が展開する方向を決定付けたと言える。
すべて 2006 2005
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芸術学フォーラム4東洋の美術
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Yuzankaku
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