近代日本の最初の本格的な音楽学者、兼常清佐の生涯を通して、近代日本の辿ってきた音楽観の変移の一形態について明らかにし、報告書『近代日本における音楽観-兼常清佐を中心に-』を作成した。『報告書』の論考篇には、「兼常清佐の軌跡」として「兼常家の系譜」「幼年期から大学入学まで」「東京音楽学校邦楽取調掛での兼常清佐」「学位取得の経緯」「兼常清佐の実験音声学」「兼常清佐・徳川頼貞・石橋益恵」の6論考、資料篇には、「兼常清佐関係資料」として「萩博物館蔵兼常清佐関係資料の概要」「上野学園大学蔵兼常清佐遺品の概要」「兼常清佐年譜」「兼常清佐著述目録」の4資料をおさめた。 また研究代表者と分担者は「兼常清佐の学位申請論文について-東京音楽学校邦楽調査掛に提出した『報告書』との関係-」の論題で、東洋音楽学会東日本支部第28回定例研究会(2006年12月2日)において口頭発表を行った。その際、兼常の膨大な研究成果は、おなじようにこれまで日の目をみることのなかったそのほかの遺稿や、発表しても忘れられている諸稿とも合わせて、一度しっかり評価する必要があることを主張した。 なかでも、東京音楽学校邦楽取調掛に兼常清佐が提出した兼常清佐関係資料「日本人の音楽意識の内容に就て(実験とその予測)」「三宝院所蔵の声明書類に就て」等(東京芸術大学付属図書館所蔵)及び京都帝国大学に兼常清佐が提出した学位論文「日本の音楽に就ての一観察」(京都大学付属図書館蔵)の内容把握と評価が、当面の課題である。
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