視覚イメージ(画像)は、視覚的コミュニケーションのためのメディアとして、さまざまな機能を担ってきた。本研究の課題は、視覚イメージが担う5つの機能--指示的/表出的/指令的/メタ絵画的/美的機能--を、コミュニケーション行為の観点から再検討することにある。この課題を解決するために、本研究は、言語行為論の理論的枠組みを援用することによって、絵画行為--画像を一定のコンテクストにおいて使用(制作/受容)すること--の多様性を概観した上で、その行為論的な構造--画像が帯びる特定の形式的・様式的特徴と行為の意図の連関--を分析し、当の絵画行為を公共的/制度的な出来事として成立させている規則体系を明示することを試みる。 平成19年度は、18年度に引き続き、一般的な「絵事の構造」と「絵画の機能」を、浮世絵という近世に固有の画像に即して特殊化・具体化し、絵画行為論の観点を導入することを目指した。具体的には、「都市鳥目敢図と観光のまなざし--《うきゑ京中一目細見之図》を見る」(『美術フォーラム21』第15号)において、《うきゑ京中一目細見之図》と題された名所絵は、写真映像--これからまなざしを向けようとしている場所についての予知あるいは白日夢を構成してくれる--の近世的なバージョンであることを明らかにした。また、「<日本美術>の記号学--ソシュールと遠近法」(『言語』第36巻5号)において、浮絵の遠近法的特徴を明らかにするとともに、「『山水面白く、また物凄し』--広重日記に見る情緒性」(r美術フォーラム21』第16号)において、広重は、名所絵を描くことにおいて/よって、当時の受容者に対して、諸国の名所/山水について「面白さ」--楽しさや愉快さと結びついた美的性質--を知覚させることを意図していたことを明らかにした。
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