平成19年度は最終年度としておもに以下の研究・調査をおこなった。まずはフリードリヒの重要なパトロンであったロシア皇帝ニコラス一世が購入した油彩、セピア画などを多数所蔵するエルミタージュ美術館での調査である。同館の学芸員で、フリードリヒ研究者のB.I.Asvarishch氏に協力を得て、主にセピア画の《公園の眺めのある窓》を調査し、文献資料とともにこの作品に見る窓の風景への精神的な物語の付与、画家のモンタージュ的手法などを確認した。次にフリードリヒの芸術批評「現存の芸術家と最近逝去した芸術家の作品を主とするコレクションを見ての意見」を所蔵するドレスデン版画素描室から特別に許可を得、この貴重な手書き資料の調査を行った。 本研究および調査は、ドイツのフリードリヒ研究者、エルランゲン-ニュルンベルク大学のHans Dickel教授の協力を得ている。Dickel教授を日本に招聘し、2007年9月21日に京都国立美術館で「ロマン主義の<現在>-美術、音楽、思想から-」を開催した(京都国立近代美術館共催、京都ドイツ文化センター後援)。シンポジウムにおいては、「ゲルハルト・リヒター-ロマン主義の風景画家?」(Dickel)、「日本におけるロマン主義の受容について」(神林恒道、立命館大学教授)、「ドイツ・ロマン主義の分岐点?-トポスと.してのシュレッケンシュタイン」(藤野一夫、神戸大学教授)の報告と仲間の司会によるパネル・ディスカッションを行った。また9月24日には、東京(国立新美術館)で、講演会「ドイツ・ロマン主義と現代美術」を実施し、「ドイツ美術におけるロマン主義とは-フリードリヒ、リヒター、キーファー」(Dickel)、「ドイツ美術におけるロマン主義の現在」(仲間)を発表した。
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