本研究は、ルネサンスのイメージ文化における古代異教の慣習の残存を、終末論的預言や奇蹟のイメージ、葬祭用肖像、奉納像という三つの事例に即して考察することを目的としている。本年度は主に、これらの事例を扱うための基礎的資料(一次資料、二時資料)を収集し、考察の基盤となる方法論を検討した。 三月に実施した海外調査では、フィレンツェの古文書館等に残る一次資料にあたり、サンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂等に由来する奉納像の慣習や、メディチ家の葬祭肖像にまつわる文献の収集にあたった。資料収集については、今後も引き続き、フェッラーラ、マントヴァなどでも継続していく予定である。 方法論としては、アガンベン、ギンズブルク、カントローヴィッチ、ギージーなどの基本的な研究の解読を進めるとともに、ジョルジュ・ディディ=ユベルマンのヴァールブルク論『残存するイメージ』の翻訳を手がけ、人文書院より出版した。 終末論的預言の普及と、そこでのイメージの地位については、ヴァラッロのサクロ・モンテ創設に多大な貢献をしたフランチェスコ厳修会士ベルナルディーノ・カイーミの構想を残存資料から再構成し、危機的状況で求められたイメージの一形態を考察し、紀要論文にまとめた。そこではとくに、魂の救済を祈念して実践された「心の巡礼」とイメージの関わりに目を向け、さらに「場」と「イメージ」による古来の記憶術を援用したサクロ・モンテの初期構造を浮き彫りにした。 これと関連して、ルネサンス文化における記憶術の実践と、そこでのイメージの地位を解明したリーナ・ボルツォーニの『記憶の小部屋』の翻訳も手がけ、2006年度には出版する予定である。
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