研究課題について、平成17年度は主に、星曼荼羅の諸尊配置の構成原理を解明する基本作業として、各種星宿図(北斗曼荼羅のほか熾盛光曼荼羅などを含む)の現存作製の図像比較をおこない、既存の画像データを用いたデータベースの構築に向けてデータ入力を継続した。また、星曼荼羅の成立問題を解明するための基礎作業として、インドと中国の古天文学の特質を考察し、関連資料の調査・撮影をおこなった。インドにおける代表的遺例として大英博物館所蔵「ナヴァグラハ」を、中国における代表的遺例として大阪歴史博物館所蔵「蘇州天文図拓本」を取り上げ、星曼荼羅の成立ならびに展開を、仏教(密教)、ヒンドゥー教、道教、陰陽道などの星宿信仰との関わりの中から捉えるとともに、古代数理天文学との比較という観点からも考察した。また、日本の星宿信仰と深い繋がりのある天神信仰との関係を解明するために基礎作業として、大阪天満宮所蔵の「天神画像」を調査し、写真撮影をおこなった。天神画像の遺例の多くは制作年代が中世後期から近世にかけてであり、星曼荼羅制作の盛期とは時間的な隔たりが大きいが、天神信仰の展開は星曼荼羅の成立にも大きな影響を与えたとみられる天人相関説を背景としており、北野天満宮所蔵「北野社絵図」のように、星曼荼羅の中尊である釈迦金輪と天神を同一画面に描く作例などは、日本の星宿美術の展開における両者の習合の好例といえる。それらの具体的な関係については今後解明すべき課題であり、また、星曼荼羅の代表的遺例のうち未だ撮影許可を得ていない作品については、写真撮影が可能となるよう所蔵寺院への交渉を継続する。
|