今年度には昨年度に知り得た資料の蒐集を行ったうえで、これまでに蒐集した資料を用いて数本の論文にまとめた。資料蒐集は国内において1)民族学と戦前の日本美術書に関する資料を早稲田大学図書館において調査し、複写した。2)ドイツの民族学の歴史と日本との関係と、ユダヤ人の日本美術関係者にかかわる資料をドイツ日本研究所において複写した。ドイツでは1)昨年確認したブルリン連邦フィルム公文書館でのニュースフィルムの見落とした部分を改めて確認し、2)ミュンヒェン民族博物館において当博物館の歴史を裏付ける資料およびドイツ民族学の関連資料を調査、複写した。3)ユダヤ人と日本美術に関連する研究者を跡付ける資料をミュンヒェン州立図書館、中央美術史研究所、ベルリン連邦公文書館にて調査し、蒐集した。テスクワークでは、上記資料をもとにして1)日本美術蒐集状況からドイツにおける日本美術観の少なくとも二つの把握方法があり、ナチスでの日本美術の戦略もそれに並行する可能性をまとめた。2)日本美術研究とユダヤ人との関わりに留意することで、ドイツでの日本美術研究状況にその影響が認められ、そのことからナチスの求めた日本美術の役割を考察し、論文にまとめた。3)昨年度に確認したこれまでしられていなかったニュースフィルムを一部裏付け資料に加えて、ナチスドイツ政治戦略が日本美術をいかに利用していたのか、その錯綜とした状況を検討し論文にまとめた。なお、この資料を中心にしてドイツ側の研究者と政治家の立場の違いを考察する論考も用意しているが、公表の機会に恵まれなかったため、2008年内に研究機関において公表したい。今年度は最終年にあたり、上記成果と、さらに公表していないものの、新聞資料から知り得たデータを整理し、また贈答品の問題をとりあげた論考を含めて報告書にまとめている。
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