本年度は7月にローマで開催された国際ポピュラー音楽学会に参加し、ジャズ関連の発表を聞き、発表者とコンタクトした。現在、アメリカ以外の各国でジャズ史が書かれている実情を知った。研究発表欄掲載の「ジャズ研究の最近の動向」以降の文献情報を得た。8月には成蹊大学で開催されている共同研究会に参加し、『戦後日本のジャズ文化』の著者マイケル・モラスキー氏らと議論し、出版プロジェクトの可能性を探った。11月には別の予算でカリフォルニア大学サンディエゴ校、ロサンジェルス校を訪れ、前者では研究発表欄掲載の「笠置シヅ子のスウィングする声」を発表し、民族音楽学者、アメリカ音楽史家、作曲家、パフォーマンス科学生などから、フィードバックを得た。それを生かして、英語論文にする必要を感じた。後者では日本のモダニズムについての著作を執筆中のミリアム・シルバーバーグ教授と会い、ジャズ研究を文化史から論じる必要性について教えられた。1月、2月には手持ちのカセット資料のデジタル化、CD資料の整理のアルバイトを頼んだ。また国内においては、震災後から昭和初年にかけての音楽文献を国会図書館、横浜市立図書館、日本近代音楽館などで集めた。 このような準備を行いつつ、日本のジャズ文化を演奏空間の変移、あいまいなアメリカ文化への態度から探っていくことに今年度は費やした。ダンスホール、映画館、劇場、ジャズ喫茶、放送スタジオ、録音スタジオ、これらをジャズメンは横断して生きてきた。それぞれ身体、映像、観客、複製技術、家庭、産業と深く関わる。こうしたアプローチは録音とスタイルの変化とバンドメンの経歴に集中してきたジャズ史の書き換えにつながるだろう。来年度もこの方向をつきつめていく予定である。
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