当該研究は、平成17・18の両年度にかけておこなったもので、江戸時代後期の浮世絵師・勝川春章が遺した絵画作品の総目録の作成と、それら作品にみられる印章の分類・整理を目標課題としたものである。 (1)まず、作品の基礎資料収集については両年度に跨って予定通り実施し、関西を中心に国内各所に調査旅行を実施した。その結果、写真資料のみで従来未確認だった作品の再発見とともに、幸運にも新出の作品も出現し、都合8件の作品を実地調査にて確認、写真資料等のデータ収集を実施した。なおこの作業にあたっては、新規購入したデジタル関連機材類が非常に高い効果を発揮した。これによって、従来準備稿として保持していた春章作品のデータが大幅に更新、あるいは追加され、最終的には所期の目的のひとつであるより精度の高い総作品目録を完成させることができた。なお、これら画像の公開は研究報告書ではおこなったものの、写真の著作権に留意する必要があるため、当初予定した全作品画像の出版等での各メディア上での公開については、いずれ出版助成等を申請したうえで写真使用料等を別途捻出し、あらためて権利者の許諾を得てからおこなうこととした。 (2)ついで、この成果を踏まえて、もうひとつの研究課題である款印に基づく考証研究をおこなった。春章の印章については従来の研究では考証がまったく加えられていなかったが、前述の目録作成の過程で得られたデータを材料とすることで、予定通りこの考察の前提が整った。具体的には、各種データをもとに絵師春章が用いた主として四つの印判の使用状況を分類・整理し、それぞれの使用時期について考察を加えたが、このほか、各用印の印文の意味するところについても掘り下げて論述した。たとえば、春章の用印がいずれも1.4センチ四方の方印であることなど興味深い事実もいくつか確認できたが、その成果については、論文という形で『出光美術館研究紀要』12号に掲載・発表することができた。 以上のように、本研究では当初予定した二つの大きな研究をほぼ予定通りに遂行することができ、これによって、浮世絵師。勝川春章にまつわる重要な基礎的研究は大いに進展をしたと考えるものである。
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