久野豊彦の全業績を、古書および復刻版書籍・雑誌類の購入と、日本近代文学館所蔵雑誌を中心とする初出形態によって把握し、テクスト内容の理解と分析に努めた。すべての初出本文を掌握し、以後の所収本文と照合して異同を明らかにしたほか、編年体の業績目録を作成し、遺漏のないように点検・精査を行った。 上記全業績の把握を基盤として、久野豊彦の文芸様式と思想的な骨格を解明する作業に着手・展開し、所期の成果を上げた。平成19年度秋・冬には、研究の完成に伴い、二度にわたり学会発表を行い、その結果を論文として所属大学の研究報告に投稿・掲載したほか、A4判全100ページの研究成果報告書を作成し、印刷・配付した。 すなわち久野豊彦の文芸様式としては、「モダニスト久野豊彦の様式」の総題のもと、「久野豊彦の文芸理論」(未来派・構成派との関わり、フォルマリズム的側面)、「久野豊彦とダグラシズム」、「久野豊彦のテクスト」(フラグメント、物語の逸脱、身体の記号化、パロディとしての経済社会、視聴覚テクスト)の各事項につき、究明を深めた。 また久野豊彦の思想的体系としては、「久野豊彦とダグラス経済学」と題し、「C・H・ダグラスと久野豊彦」(ダグラスとは誰か、久野とダグラス経済学との出会い)、「ダグラス経済学の現代性」(ダグラス理論の概要、ダグラス経済学の評価)、「久野豊彦におけるダグラシズム」(マルクス主義との対決、文芸理論への導入、貨幣形態と芸術形態、新社会派の内実)の各項目につき、経済学思想との交渉において解明を進めた。 以上の研究により、難解で近寄りがたい作家とされてきた久野豊彦の全体像に接近することができたと考える。
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