本研究は、元禄10年代から宝永期における浮世草子出版において、中心的な役割を果たした作者の一人である西沢一風と、その一風と関連の深かった出版書肆菊屋七郎兵衛を主たる調査対象とし、一風の浮世草子作品出版をとりまく環境や、その作品内部を研究するための基礎的な作業をおこなおうとするものである。 西沢一風については、全集の完成によりテキストが固まるとともに、その書誌的な調査も詳細におこなわれた。それを受けて、本研究では作品のデータベース化(『新色五巻書』・『御前義経記』・『寛濶曽我物語』・『傾城武道桜』・『色縮緬百人後家』・『今源氏空舟』等)をおこない、今後の注釈的読解や文体分析のための基礎的作業とした。 また、特に菊屋七郎兵衛方から出版された浮世草子作品、『風流今平家』および横本型3作品(『傾城武道桜』・『伊達髪五人男』・『風流三国志』)について、その主要語句索引を作成した。この時期の一風作品の特徴や傾向を分析する上でのツールの作成であると同時に、他の浮世草子作者の作品を注釈的に読解する上でも、有益な成果であると考えられる。ただし、典拠等をより明確にするためにも今後も継続して内容を充実する必要があり、現段階では索引(稿)という形をとっている。 当時の浮世草子界における出版書肆と作者という観点からは、当初考えていた一風と都の錦との関連性から考えるのではなく、大坂の書肆万屋彦太郎と組んで浮世草子作品を作っていた錦文流の作品と、万屋・菊屋の関連性について調査を継続することとし、研究成果報告書に現段階での考えと今後の見通しを略述した。
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