本研究の最終的な目的は、宝暦末年から寛政初年において上方の小説・散文界におこった変化の意味を再検討することにあるが、本年の具体的な調査項目を以下の二点にしぼった。 (1)明和期に刊行・成立した書目データベースの作成。 (2)明治初期からの近世文学史記述の検討 それぞれの成果を以下に記す。 (1)明和期に刊行・成立の書目を、国文学研究資料館ホームページに公開されている電子資料館「書誌・目録データベース」の「国書基本データベース(著作編)」と「古典籍総合目録データベース」を利用して抽出した。6000点以上に及ぶ書目データが得られたが、とりあえず、それらを分類し、特定する作業に入っているところである。ただ、「国書基本データベース」は、書名・著者名・ジャンル・成立年以外のデータが欠けているので、『国書総目録』8冊と照合しつつ点検をすすめていかなければならないので、なお、時間がかかると思われる。この作業は大学院生に依頼しているので、謝金はこのために使用した。来年度あるいはさらにそれ以後までかかる作業であろうと考えている。なお、これと併行して、注目すべき書目については、国文学資料館その地各地の図書館で調査を行なったが、旅費はそのために使用したものである。 (2)これとは別に、明治期の江戸文学史の記述内容についても検討をすすめているが、これに関してはいくつか興味深い問題を指摘しうる。従来の近世文学史研究においてあまり重視されてこなかった三上参次・高津鍬三郎合著『日本文学史』の近世の部分や藤岡作太郎の『近代文学史』等には、今日の公式化した文学史には見られない、目配りのきいた幅広い記述がみられる。近代的な「文学」観に固定されない、「ポスト江戸」とよぶべき観点から、これらの文学史記述は見直されるべきであることを確認した。
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