川端康成が長編小説『海の火祭』(昭和2・8〜12)に引用し援用した文献を、宗教関係のものを中心として調査をおこない、数点の重要な文献を発見することができた。調査は主として国会図書館等の首都圏に出張し、おこなうこととしたが、十分な成果が得られたと考える。この成果については、未だ発表していないが、現在準備中であり、順次公表してゆくことになる。 一方、本研究はこうした実証的な調査に基づいて、川端文学の方法論的特徴を明らかにすること目的としているが、この方面においても、重要な知見を得ることができた。たとえば、若き日より晩年まで、川端は仏教経典「維摩経」と深い関わりがあったと認められるが、この現象において注目されることがらは、仏教を西洋哲学上の認識論的問題、または、言語論的問題と関連させて摂取されていることである。仏教のもつ東洋的な思想性が受容されていることに間違いはないが、同時に、西洋哲学の枠組みの中でそれが摂取されていることは注目すべきである。川端文学は全般として認識論的問題が指摘でき、したがって、仏教の認識論的問題は、川端文学を成立させている要として措定できることが可能である。 以上のような知見については、一部を「新感覚派における認識論的問題の行方」(裏面参照)として発表した。また、今年度4月には東京大学国語国文学会大会(2006年4月22日、於、東京大学)において、「仏教的なるもの」と題して公開シンポジウムで講師を務めることとなっている。
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