今年度は、1950年代から1970年代前半にわたる米軍占領下における沖縄文学の展開についての基礎的文献資料の収集調査を積極的に進め、その資料の分析に基づいた複数の論文発表及び国際学会発表を行うことができた。 とくに、戦後沖縄文学における言語的葛藤と「沖縄人」主体意識の変成、そして沖縄表象とジェンダー・セクシュアリティの関係は、本研究における最重要課題であるが、これらのテーマについて、以下のような論文を発表することができた。1950年代沖縄文学の反植民地文学としての可能性を、とくに植民地男性セクシュアリティの視点から論じた「植民地の男性セクシュアリティ沖縄占領とゲイ身体政治」(『現代思想』第33巻10号)、あるいは、戦後沖縄文学の代表作の一つである又吉栄喜「ジョージが射殺した猪」(1978)に焦点を当て、そこに日本語の秩序を脱構築していく沖縄文学の新しい言語的実験を見出した「日本語を内破する-又吉栄喜の小説における日本語の倒壊」(琉球大学法文学部紀要「日本東洋文化論集」13号)、さらには、大江健三郎「沖縄ノート」(1970)を初めとする沖縄に関わる文学的表象におけるジェンダーバイアスを批判的に考察した「ホモエロティクスの政治的配備と『冷戦』」(「お茶の水女子大COE『F-GENSジャーナルNo.4』)などがそうである。これらの論文により、戦後沖縄文学研究に新しい視点を提示できた。また、こうした論文発表と併行して、2005年7月には台湾東海大学主催国際シンポジウム「台湾・韓国・沖縄で<日本語>は何をしたのか」において、そして、同年11月には韓国ソウル大学主催国際会議「継続する東アジアの戦争と戦後」において、加えて、2006年3月にはアメリカ・プリンストン大学での国際会議アメリカ比較文学会2006年次大会で、それぞれ戦後沖縄文学に関する研究発表を行った。
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