平成19年年度当該研究における最大の研究実績として、単著『到来する沖縄 沖縄表象批判論』(インパクト出版会、全246頁、2007年)の出版を挙げることができる。『図書新聞』『みすず』『東京新聞』『琉球新報』『共同通信』等での書評を含め、出版後まもなくにして幾つもの学術誌や論壇誌で提示された高い評価に明かなように、この本において展開された戦後沖沖縄文学研究の諸相は、特に、「日本復帰」前後の反復帰論の再評価や新城貞夫の短歌への全く新しい分析研究、あるいは、大江健三郎をはじめとするいわゆる「日本本土」の作家たちによる沖縄表象の特質を明かにしている点で、戦後沖縄文学研究に斬新な考察をもたらし、日本近代文学のなかで戦後沖縄文学がしめるポストコロニアル的独自性を明証したという点に、今年度研究の重要性が見出せる。また加うるに、戦後沖縄文学そして文化表象に関して、元『従軍慰安婦』問題、軍事占領におけるホモソーシャル権力の問題を考察し、特に二論文「八月十五夜の茶屋」論 米軍沖縄統治とクイア・ポリテクス」と「ホモエロティクスの政治的配備と『冷戦』 沖縄への/からのまなざしの抗争」の発表を通じて、戦後沖縄文学におけるジェンダー及びセクシュアリティの政治学的独自性を開示しえた点は、これまでの研究の沖縄学の空白部分をうめる新たな研究的展開の先駆けとなっている。こうした点に、本年度の研究実績の独自性と重要性がある。
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