本年度も萩坊奥路の著作についての書誌調査を継続して実施した。大雅舎其鳳名義の作や存疑作(南峯名義作。多田一芳作)をも調査対象とし、京都大学附属図書館、筑波大学附属図書館、香川大学附属図書館等に所蔵される諸本を調査し、影印等の資料を蒐集した。これらについては書誌目録を作成する予定であるが、その土台となるデータ入力を概ね完成した。これらは書誌と併せて、内容の概要をも示すことを予定している。また書肆吉文字屋と奥路の事跡についての調査を実施した。俳諧方面についての調査は、「百三十番発句合」、「紀行俳談二十歌仙」、「花月六百韻」等吉文字屋の俳書を中心に行い、特に「花月遷」ほか、其鳳との関わりが指摘される半時庵淡々系の俳書を尚継続調査中である。奥路は自作の広告を本編の末尾に掲げることが少なくないが、奥路存疑作である『人間一生三世相』には奥路の『最明寺殿諸国物語』の宣伝が掲載され、本作の著者南峯、奥路同人説の一つの傍証となる。また、奥路浮世草子の出典調査を進め、『列士』、『捜神後記』などの中国典拠が判明しているが、これらを媒介した類書の存在も推測され、尚調査を要する。奥路の作のうち、明和九年までに刊行された奇談物、中編雑話物を中心に分析を行い、これらの思想と様式上の問題について考察した。特に奇談物に看取される思想(儒家思想)の保守的性格や合理的態度について、当時の小説思潮の問題としてこれを論文化した。また、奥路作 『西海奇談』の翻刻作業を行った。
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