基盤研究課題「吉文字屋専属作者荻坊奥路の浮世草子に関する調査研究」では、二〇〇五年度より二〇〇七年度までの三年間に渡り、近世中期上方小説史-浮世草子から談義本、読本等への小説の展開史-の一端を解明するべく、これまであまりまとまった研究のない、浮世草子作者荻坊奥路の著作についての総合的な調査研究を行った。基盤的研究として、「古典籍総合目録(国文学研究資料館電子資料館)」によって知りうる奥路の著作(存疑作を含む)諸本の悉皆調査(在外作品、所蔵未詳作品を除く)を行い、その成果を報告書にまとめた。奥路の作のうち、明和九年までの奇談物、中編雑話物を中心に分析し、同時代性、パロディの方法、中編構成、対読者意識の強さ、信義や宿命論の主題等の諸特徴とその文芸性について考察した。奥路作品と先行の『一夜船』、『世間娘気質』、『怪談御伽桜』等の浮世草子、また同時代の談義本との関係性も明らかになってきたが、典拠については未判明の部分も多く、継続調査中である。これらの研究成果の一部は、「怪談物読本の展開」(『西鶴と浮世草子研究』第二号)に結実している。また、「滑稽怪談の潮流」(『人文学報』402号)では、奥路の『弁舌叩次第』等を取り上げ、実録や読本の怪談物とは異質な浮世草子怪談物の好笑性について論じた。一方で奥路の作品には「天命」思想の色濃いことが注意される。近世人の宿命論的世界観には老荘思想の影響が大きいと考えられるが、奥路の中国種の作品には、その影響の具体相を見ることができるように思う。これは近世文芸思潮の問題として、今後考察を深めていきたい。未翻刻の稀覯本である、奥路の『西海奇談』(関西大学図書館蔵)の翻刻を行った(研究成果報告書に所載)。
|