研究概要 |
2005年度は、本格的な研究に向けた基盤整備の年と位置付け、以下の活動を行った。 (1)本プロジェクトの基軸は、慶應義塾に寄贈された旧改造社関係資料である。まずは、劣化の著しい資料を含むそれらの整理・保全を図りつつ、来たるべき資料公開に向けて、松村の指導する大学院生が、書籍資料のディジタル・データ化をおこなった。次年度以降、これらのデータ・ベース化に着手し、旧改造社蔵書目録を作成する予定である。 (2)プロジェクトのメンバーが、各自の研究の方向性を深化させる目的で、研究会を2度(9月・1月)、研究協力者であるPD・院生による資料の分析・検討会を2度(7月・8月)開催した。着手した研究として、戦時期の改造社での原稿料・印税支払いの実態について、社の経営状況と合わせて、かなり詳細なデータが抽出できることや、広告代理店・電通と結んだ改造社の広告戦略が、旧植民地・勢力圏の非日本語メディアにまで及ぶことが確認された。本資料体のうち、改造社宛の書簡類については、すでに翻刻が一部完成している。今後、著作権保持者の了承が得られ次第、順次、研究成果として公表していく。 (3)2月には、研究協力者のPD・大学院生(いずれも松村が指導を担当)4名が、台湾・台北市に調査出張を行った。1920年代後半に、改造社をはじめとする出版社が挙って出版し、日本語の出版市場を飽和させていた「円本」叢書の、旧植民地・勢力圏における流通の実際を、残存する資料から検討することを目途していたが、成果としては、傍証以上のものは見出せなかった。しかし、調査の過程で,複数の週刊・旬刊新聞による、台湾現地でのイエロー・ジャーナリズム然とした情報網の自律的な圏域を窺測しえた。20世紀ジャーナリズムの一つの様態として、マス・メディアと対抗的な小さなメディアの分立・並立による、情報の質的・量的な活性化という事態も、今後の検討課題となると思われる。
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