研究課題の最終年度にあたる本年度は、研究の「完成期」と位置付け、さらなる研究の深化と研究成果の積極的な発信を目途した活動を行った。なお、研究分担者・連携研究者・研究協力者の本課題に関連する研究は現在も進行中であり、今後も、松村が中心となり、その成果のとりまとめと研究資源としての公共化に向けた作業を行っていく。 (1)本研究が主一な対象とした改造社資料にかんして、所蔵機関である慶應義塾図書館によるDVD資料としての公刊の準備が進められている。当研究プロジェクトはこの計画に全面的に協力し、資料体の目録や区分データなどを提供する他、これまでの調査・検討の結果明らかになったことがらを、書誌情報等の文字コンテンツに反映させていく。 (2)主に松村が指導するPD・大学院生とメディア研究を専攻する若手研究者とが中心になって、改造社資料ならびに改造社の事業活動にかんする多角的な検討を行った。とりわけ、1930年前後の出版流通における出版社と取次業者との関係、雑誌・単行本・文庫といった書籍形態別の販売戦略の差異、当時の植民地における知的言説の商品化に対して改造社が果たした役割等にかんして、重要な知見を得た。また、当時としては異色の企業家でもあった改造社社長・山本実彦の伝記的事実や経営思想にかかわる検討も行われた。 (3)改造社の活動とその関連資料の研究資源としての意義を広く訴えることを目的に、公開の研究集会を開催した。7月には、大橋毅彦氏(関西学院大学)を招聘、1940年前後の上海における日本語言説が持ち得た文化的な可能性が議論された。2月には、和田敦彦氏(早稲田大学)・米谷匡史氏(東京外国語大学)を招き、改造社や総合雑誌『改造』にかかわる研究の射程について、今後の研究継績を見据えた議論が展開された。
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