1.足利義満期の公家日記のテキスト・データ化と公刊のための準備(小川) 義満の時代の基礎史料である『迎陽記』について、京都大学附属図書館・宮内庁書陵部に赴いて調査を行い、紙焼写真2000枚弱を購入した。また、お茶の水図書館蔵成簣堂文庫の東坊城家旧蔵本の写本も調査を終えた。ついで、記事が現存する康暦元(1379)・二、応永五(1398)・六・八の五年分の記事のテキスト・データ化に着手し、予定通り30万字の翻刻を完成することができた。本書は、中世の公家日記として活字化が最も渇望されているものであり、その公刊が一気に実現に近づいた。その利用価値は、義満研究だけにとどまらず計り知れないものがあろう。 2.義満の政治的行動についての研究(小川) まずは義満の和歌についての研究を行った。ついで、その歌道師範であり、側近でもあった飛鳥井雅縁の周辺を探った。そこで天理図書館より飛鳥井家旧蔵『古今問答』ほかの歌書の写真を購入し、雅縁自筆であることを明らかにした。その紙背文書は当時の要人の書状であり、義満の時代の生々しい証言となるものである。没後まもない義満が「尊号御事」と称されていた新事実も判明した。 3.室町時代前期における室町将軍と学問・芸能との関係についての研究(松岡・小川) 財団法人観世文庫に於いて、室町から江戸にかけての演能に関する史料について、数度の共同調査・研究を行い、その成果の一部を『国文学』(学燈社)誌上に公表した。 続いて、没後六百年を記念して、『ZEAMI』誌で足利義満特集を組むことを決定し、11月25日に森話社で打合せを行った。その場で、18年12月に刊行すること、松岡・小川のほか、日本史・日本文学の研究者六名に、義満ないし室町幕府将軍の文化政策、外交・経済・禅宗・建築・学問・歌道といったジャンルでの論文執筆を依頼することなどが決定した。依頼した全員からは執筆の快諾を得た。次年度の研究は、この特集の編纂を軸として展開する予定である。
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