研究課題
本年度は、研究計画に従い、平成17、18年度に暫定的に整理した「メタファー」理論および「メタ思考」理論の再検討を行うとともに、それを近現代ドイツ文学・思想に関する具体的なテクスト分析に適応し、その妥当性を個別のテーマに即して検証するという作業を中心に研究を進めた。その成果をテーマ別に挙げておく。まず、現代社会思想に関するテクスト分析(ハーバマス、ルーマン等)では、社会的コミュニケーションにおける意味転換のメカニズムがメタファー機能を重要な要素としていることが確認された。言語の同一性と非同一性の差異を調整しつつ、相互理解を目的とする公共的コミュニケーションにおいても、メタファーによる意味の偏差が極めて重要な役割を果たしており、言及対象に対する「メタレベル」の擬似的創出を可能にしていると考えられる。また、近現代文学に関するテクスト(ベンヤミン、マン等)では、未知なるものあるいは他者なるものの先行的な可視化にメタファー機能が応用されている点、またその先行的なメタファー的表現の付与がメタレベルにおける意味体系への回収に大きく寄与している点が分析結果として得られた。さらには、現代芸術理論に関するテクスト分析においては、歴史的に蓄積された意味の古層へと遡及するようなメタファー機能が認められると同時に、前衛的な芸術における伝統的な美的価値へのアンビバレントなスタンスを表現するメタファー効果も確認された。他にも、ユダヤ文学における聖典と解釈テクストの関係、メディア理論における伝達媒体そのものの意味転換作用等の分析においても、「メタファー」が「メタ思考」の基礎的な機能を担っていることが認められた。
すべて 2008
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メディア・コミュニケーション研究(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院) 53
ページ: 85-98