本研究は、ポール・ヴァレリー(1871-1945)の文明論テクストについて、フランス国立図書館所蔵の草稿および関係書簡を調査・分析することによって、その執筆の舞台裏を明らかにすることを目的とする。文明というテーマの重みが切迫の度を増している21世紀の現代において、ヴァレリーの文明論を、再度、精密な実証的裏打ちを伴った形で読む必要があるという内的要請から、この研究目的が選択された。研究期間(三年間)の二年目に当たる今年度は、前年度に引き続き、ヴァレリーの文明論関係テクストの整備と草稿資料の収集、関連参考文献の入手、識者との情報交換といった作業が計画された。具体的な研究実績の内容は以下の通りである。まず、文明論草稿のほぼ半分に相当する『現代世界の考察』の草稿コピーが所蔵されている一橋大学の日本ヴァレリー研究センター、および、受信書簡を含めたヴァレリーの作品手稿・ノート類の大半が所蔵されているパリのフランス国立図書館西洋手稿部への出張調査を実施し、前年度に引き続き基本的な資料の収集を行うことができた。また、文明論一般のさまざまな問題系を認識するための資料として、歴史・ヨーロッパ関連の文献を幅広く収集した。ヨーロッパ研究の意味合いも含む本研究にとって、2006年10月の訳書『ヨーロッパの言語と国民』(ダニエル・バッジオーニ著・筑摩書房)の上梓は、間接的ながら、今年度の大きな研究成果のひとつであるということができる。さらに、学会や調査旅行等の機会を生かして、優れたヴァレリー研究者との意見交換を行い、貴重な示唆を得ることができた。以上のように、草稿資料・関連文献の収集、ヨーロッパ文明論に関する著作の翻訳上梓、ヴァレリー研究者との情報交換など、本年度も昨年度に続き、充実した研究成果を収めることができた。以上の成果を顧みて、本年度の研究実施計画は十分に果たされたということができる。
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