研究課題
基盤研究(C)
英国の代表的小説家であるディケンズの作品と演劇との関係、とくに彼が直接的に影響を受けたと思われる17世紀初頭のルネサンス演劇や後半の王政復古期演劇との関係についての研究はほとんど行われてこなかった。本研究は、17・18世紀演劇とディケンズの小説との親近性を発見したことに端を発したものである。本研究では、演劇の一次資料を徹底的に渉猟することによって、ディケンズの初期小説に顕著に見られる演劇性の淵源を明らかにすると共に、18世紀初頭に起こった演劇から小説へのジャンル転換がいかなる文化的メカニズムとダイナミズムによっているのかについての解明が試みられた。その結果、近代資本主義文明の象徴である都市の発展と近代文学ジャンルの生成・変容とが密接に関係していることが洞察された。中世的なロマンスが都市の急速な発展によって拡大しつつあった徒弟階級を主たる観客層とする演劇にとりこまれることにより、都市化されたロマンスが出現したのである。「森」という場を中心とするロマンスには、人間の自然の本性を象徴する部分があり、「都市」はその対極としての文明を象徴するものである。「森」=田園に住んでいた人間は、都市に流入して市民となることにより、文明の建設に向かうと共に、根源的な矛盾を抱え込むことにもなった。そこにイギリスの近代文学と新しいジャンルとしての小説が生まれることになったのである。本研究により、ディケンズと演劇の関係という比較的狭いテーマを超えて、都市ロマンス劇がジャンル変遷を惹起するダイナミズムが詳細に解明され、17世紀から19世紀に至る英文学史を全面的に再構成する可能性が開かれた。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
英語青年 152巻・8号
ページ: 17-19
The Rising Generation Vol.152, No.8