研究概要 |
本研究は、戦後ドイツ文学の東側の中心にいたフーヘルの少数民族観を、(1)フーヘルの原風景のなかの少数民族像、(2)ナチスの少数民族虐殺と旧ドイツ帝国東部領からのドイツ人追放問題、(3)ナチスの少数民族虐殺に関する東ドイツの歴史観、(4)東ドイツの社会主義的民族理論、という4つの複合的観点から究明する。 今年度は、一方では、フーヘルの少数民族観と東ドイツの地域的・思想的背景に関する文献資料にあたった。他方では、フーヘルが少年時代をすごしたブランデンブルク州中心部のPotsdam近郊のAlt-Langerwisch、同州東南部のLubben, Lubbenau, Cottbus、同州東部のFrankfurt an der Oder、同州西部のWerder, Brandenburgに行き、そこの郷土資料館や民俗資料館などで資料収集をしたり、周辺の村々でフィールドワークをおこなったりした。 上の文献調査と現地調査によって、東ドイツには少数民族についてこの地域特有の地域的・思想的背景があることが確認できた。しかも、スラブ系のヴェンデン人であるか、SintiもしくはRomaであるか、ユダヤ人であるかによってその背景が大きく異なる。特に、この地域のヴェンデン人は、ザクセン州に住む同じスラブ系のゾルベン人に対する共同意識と対立意識をもち、ドイツ民主共和国時代には民族政策のなかでゾルベン人に包摂されたことで、ヴェンデン人としてのアイデンティティを強くもつようになっている。この点はフーヘルの詩にも反映している。 2年間の研究のまとめとして、報告書「ペーター・フーヘルの少数民族観と東ドイツの地域的・思想的背景」を作成した。さらに、論文「ペーター・フーヘルの詩集のなかの少数民族形象-ヴェンデン人・ジプシー・ユダヤ人の形象について-」を作成した。
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