本研究の最終年度に当たる本年度は、20世紀ロシア文学のコーカサス表象の主題に関して論考を書く予定だったが、この主題を考察する過程で、特に19世紀末から強まったロシア文芸思想における言語実体論の潮流を考慮に入れる必要を発見し、その原理的な考察(その成果の一端が裏面記載の論考「歴史への内在 : ポリス・エイヘンバウムの世界観」)に想定外の時間を要したため、完成には至らなかった。ただし、資料文献の収集はすでにおおむね終了し、分析作業自体は着実に進行しているので、その成果は、来年度以降、早期に論考化できる見込みである。 本年度は、上記主題の淵源である19世紀前半のロシア文学のコーカサス表象について、裏面記載の論考「特権的トポスのはじまり」を論集『可能性と多様性のコーカサス : 民族紛争を超えて』(北海道大学出版会)中の1章というかたちで上梓することができた。 なお学会等での口頭報告は本年度は行わなかったが、国際ワークショップ「ソ連の言語・文化政策とその影響 : グルジアの事例から考える」(於大阪大学世界言語研究センター、2009年2月21目)において、グルジアの研究者の報告に対してコメントを行った。
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