本研究は、ダーウィニズムが確立した1860年代以降の英米のユートピア文学の特質を、ダーウィニズムとの思想的影響関係のなかで研究しようとするものであるが、研究の2年目にあたる平成18年度は、学部および大学院の授業でギルマンの『女の国(Herland)』の続編である『彼女とともにわれらの国で(With Her in Ourland)』、およびエドワード・ベラミの『かえりみれば』(Looking Backward)を精読しつつ、両者にかんする最新の批評の代表的なものを読んだ。また、新歴史的研究という本研究の性格上必須の手続きとして、同時代のさまざまな第一次資料、とくにダーウィニズムにかんする資料の読解に力を注いだ。 ギルマンの『女の国』(Herland)と合わせて3つの作品に共通するテーマとして、本研究ではユートピアニズムの不可能性というテーマを選んだが、ギルマンのフェミニスト・ユートピアと、ベラミの国家共産主義的なユートピアとは、ともに闘争(性別間の、あるいは階級間の)の終焉というユートピアニズムに普遍的なテーマを示唆しながら、しかし前者は、(男性の消滅による性別間の)「闘争の終焉」というテーマについてあきらかにアンビヴァレントな態度を示している。すなわちユートピアに訪れる「闘争の終焉」をかならずしも肯定的にとらえてはいるわけではない。闘争が進歩を生み出すというもうひとつのテーマを内包しているからである。 本年は、「闘争の終焉」にたいするアンビヴァレントな態度という点で、ギルマンのユートピア小説を、ウェルズの『タイム・マシン』と比較することもこころみた。
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