研究課題
基盤研究(C)
本研究は19世紀以降の英米文学作品における南太平洋の表象をナチュラライゼーション(概念の加工・改変・再規定のプロセス)の観点から分析した。山本(代表研究者)の研究は、南太平洋にまつわる言説の出発点となったクックやブーガンヴィルの航海誌の検証から始め、19世紀の英米文学作品で描かれる南太平洋像の変遷に焦点を当てた。本研究のキーワードとした「ナチュラライゼーション」を現地人女性と西洋人男性の関係のあり方という点から考察し、初期の航海誌によって西洋世界にもたらされた奔放な性の空間という南太平洋のイメージが、メルヴィル、バランタイン、スティーヴンソンの作品を通じて、修正・改変・強化される過程を分析した。その際、西洋における観念としての南太平洋像の浸透については、ダーウィンからフロイトに至る系譜を扱い、文学作品の背景となる思想を検証した。村上(研究分担者)は、南太平洋の言説が比較的ストレートな形で表出されているジャック・ロンドンの南太平洋を舞台とした諸作品、とりわけ、短編集『南海物語』と『スナーク号航海記』を中心に研究を進めた。特に後者に収録されている短編「タイピー」をメルヴィルの処女小説『タイピー』と比較検討する過程で、両作家が南太平洋に見たもの、あるいは求めたものの実態と、それにたいして西洋が行った同質化と差異化の二重のプロセスを検証した。本研究の発展的な活動として、平成18年8月、岩波書店からのエペリ・ハウオファ著『おしりに口づけを』(村上・山本共訳)の出版を挙げる。南太平洋作家による長編文学作品では、日本で初めての翻訳となる。コミカルなタイトルではあるが、そこに展開されている物語は政治的な示唆に富み、本研究が扱ってきた英米文学作品において「表象される対象」からのアンチテーゼとして注目すべき作品である。同年9月には山本・村上は資料収集にフィジーの南太平洋大学に訪れ、当地で開催された文学セミナーにおいて、日本における南太平洋文学の受容の可能性について発表した。
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金沢大学教育学部紀要、人文科学・社会科学編 56
ページ: 13-25
The Bulletin of the Faculty of Education, Kanazawa University Humanities and Social Sciences vol. 56
おしりにロづけを
ページ: 233-240
Oshiri ni Kuchiduke wo
ページ: 233-40