研究概要 |
(1)Afred Harbage, Annals of English Dramaの年代推定にもとづき、975-1642年に書かれた英国の戯曲について、大英図書館で電子データベースLIONを用いて、二階舞台へ/から主舞台から/への移動を示す語句を網羅的に検索した。その例をファクシミリ、古版本およびEBBO(国会図書館関西分館で利用)で確認し、Thomas Kyd, Spanish Tragedy(1587)を初出の例として、およそ120例を採取でき、二階舞台/主舞台の間の移動には、10〜25行分のせりふにあたる時間がゆるされるのが普通であることが判明した。 (2)ただし、シェイクスピアについては、Mariko Ichikawa, Shakespearean Entrancesの調査にもとづけば、より短い間に移動が行われている例が多数ある。0〜3行が6例あるが、うち3例は、実際の上演では退場を早めたり、少々遅れて登場しても支障がない(TIM 5.5.65;SHR 5.1.53;R2 3.3.182)。JCの2例は、Arden3の編者David Daniellの言うように、upstageを高みと見立て、二階は用いなかったかもしれない(3.2.162;5.3.33)。 解決困難なROMEO3.5の例は、所作をよく伝えるとされるQ1では、ジュリエットが下でせりふを言うまでに、短い2行が夫人と乳母に割り振られている。夫人がジュリエットを探す所作も入れれば、5〜6行分の時間があるのでジュリエットは急げば主舞台に下りられる。ロミオとのことを感づかれるという緊迫感が、彼女を追い立てると解釈できる。William Sampson, The Vow Breaker(1625)の3幕冒頭には、二階の役者に‘Enter Anne hastely...'と指示した例があるように、二階から急いで降りた事例もある。 3)関西シェイクスピア研究会(2005年4月24日、大阪大学)で、「劇評から上演研究へ」の表題で研究発表をおこない、本文批評の問題も考慮して、上記ROMEO3.5の例を論じて、貴重な示唆を会員から得ることができた。
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