本研究の目的は、19世紀末にクローバリセーションの潮流と葛藤しながら時には密接に結びついて発展した欧米ナショナリズムの多様な形態(グローバリゼーションと対立する排他的な民族主義やネイティヴィズムから、グローバリゼーションを利用して展開する帝国主義やアメリカの同化主義やcultural pluralismまで)を、同時代のアメリカ文学、特にコスモポリタンを自認すると同時にナショナリズムの隆盛も強く認識していたHenry Jamesの作品を通して分析し、明らかにすることだが、グローバリゼーションと錯綜した関係を結ぶナショナリズムの複雑な様相を考察したこの2年間の研究をふまえ、更に、本年度は、こうした19世紀末のナショナリズムの様態が、グローバルな現代社会が抱えるナショナリズムの形といかに共通性があり、その源流であったかという点にまで研究を拡大し、その視点からHenry Jamesの作品を読解し、そこに描かれた19世紀末のナショナリズムの現代的な局面を検証した。具体的には、Jamesの代表作の一つ、"Daisy Miller"を取り上げ、そこに、グローバルな規模で他国から利益を吸い上げ国力を増強する現代アメリカの国家の論理の源流が、19世紀後半の"American Invasion"と呼ばれた現象(多くのアメリカ人が金銭上の利益からエリートのステイタスという社会的な利益まで様々な利益を求めて海外に進出した顕著なアメリカ台頭の流れ)の形を取って、描かれていることを検証した。それと同時に、Jamesが、同時代の利益志向の在外アメリカ人とは全く異なる行動を取る人物をこの作品の主人公として物語の前面に押し出して描くことで、グローバルに利益を収奪していくアメリカの国家の論理から身を振りほどく可能性を模索している点も考察し、この研究は、2008年のアメリカ学会年次大会で発表する予定である。
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