研究概要 |
本年度は植物である桃金嬢myrteについて古典作品との関係を中心に研究を行い2編の論文を発表した。 「ロンサールにおける「ミルトの森(木陰)」」では植物のミルトを大きなテーマとして取り上げ、ローマ古典古代の作家に現れる描写とロンサールにパターン化して現れる表現の関係を考察した。ホラティウス、オウィディウス、ティブルス、ウェルギリウスを中心に、植物のミルトの使用法をまとめた。ロンサールでは,パターン化した表現が、時にウェルギリウスの「悲嘆の野」を指し示し、時にティブルスの描くエリューシオンの野を指し示すが、多くは両者が入り交り、古典作家にはない極楽や単なる「極楽」示す例があることを論じている。また,Laumonier版、第17巻の注釈の一つに誤りがある可能性を指摘し,一方で、ロンサールの言い回しで2度出てくる《les myrtes verds (vers)》「緑のミルト」については、この表現がホラティウス、ティブルス、ウェルギリウスにも無いことから、ロンサールはオウィディウスにある表現を利用した可能性が高いことを指摘した。同様に,第12巻に現れる《soubs les ombrages/Des myrthes Paphiens》という表現はオウィディウスのArs Amatoriaから採られたものである可能性を指摘している。また,これと関連して第6巻の注釈に関して疑問を呈している。 「ロンサールにおけるMyrteと楽園-楽園描写と古典-」では,楽園描写を取り挙げている。ロンサールの作品では、ホラティウス、オウィディウス、ティブルス、ウェルギリウスなどの作家の楽園描写を巧みに組み合わせているが、楽園の描写に不一致や破綻が認められる場合が少数ながらもあり、2つの例を示した。また、Prosopopee du Beaumont levrier du Roy & Charonと「秋の讃歌」Hymne de l' Autonneの2例ではやはり古代の作品やイタリア人のTeofilo Folengoの作品を利用しているが、もとの作品には無い代名詞《nous》により、読者の視点が導入されるという、興味深い例となっていることを示した。
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