過去8年間に行なってきた「現代アメリカ文学におけるフォークナーの遺産の体系的研究」と「アメリカ文学における地方主義(regionalism)の体系的研究」につなぐ形で、平成17年度から4年計画で出発した本研究課題「アメリカ文学におけるエスニシティ(ethnicity)の地政学的研究」の3年目の平成19年度分実施に関しては、まず前年度の研究の積み残しとなっていた南部のトルーマン・カポーティとテネシー・ウィリアムズを究明した。その後、本年度の課題である「西部を中心にした作家たち」をテーマとして、まずアメリカ文学のリンカーンと言われる国民的作家マーク・トウェイン、作家経歴の前半において、カリフォルニアを活動拠点としたジョン・スタインベック、アラスカのクロンダイクでの経験を基盤にしたジャック・ロンドン、カリフォルニアを舞台に創作したアルメニア系移民の血を引くウィリアム・サロイヤン、環境保護運動団体シエラクラブの初代会長を務めたジョン・ミューア、50年代のカウンターカルチャーの精神の象徴である「ビート・ジェネレーション」の代表格の詩人アレン・ギンズバーグや、最近のエコロジー思想の先導者である詩人ゲーリー・スナイダー、ネイティヴアメリカン・ルネッサンスの代表作家レスリー・マーモン・シルコウ、さらにはアジア系作家の中心的存在の中国系移民の血を引くマキシーン・ホン・キングストン等の作家を取り上げ、彼らの文学テクストにおけるエスニシティ表象と、地域のイメージやアイデンディティの感覚がそれらに及ぼす影響を考究した。これには伝統的な人種と階級、あるいはアメリカ文学における特異な地域としての西部や反知性主義の問題も絡んでくるので、文学研究書だけでなく、その隣接領域の社会文化学や環境学、民俗学や宗教学の研究書も購入して、上記目的を広く深く研究する土台を固める努力をした。 同時に、西部文学研究の第一人者であるヴァージニア大学名誉教授のハロルド・H・コルブや、アメリカ文学全般に造詣の深いノースカロライナ大学教授フレデリック・ボブソン、カリフォルニア大学教授のエリック・J・サンドクイスト、さらには『文学における場所』の著者であるデューク大学のロバート・ダイノット教授たちとEメールを通して研究成果の情報交換を行ない、研究上のアドバイスを受けることができた。また、6月に来日して連続講演会を機に広島大学を訪れたアメリカ大衆文化のアヴァンポップ研究の第一人者であるサンディエゴ州立大学のラリイ・マッキャフリ教授からは、西部、特にカリフォルニアという地域が、アメリカ人の想像力や精神史において持つ独特な影響力について、意見交換をし、多くを学ぶことができた。西部作家という観点おいても、マーク・トウェインの存在は傑出しているので、トウェイン研究の大家であるヴァージニア大学教授のスティーヴン・レイルトンとメール上で意見交換し、トウェイン自身の南部的な要素の嫌悪とそれとの和解劇について考察したが、その原稿が、日本マーク・トウェイン協会の機関誌7号(4月刊行)に掲載予定である。
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