本研究ではヴィクトリア朝における女性の召使について、衣服、生活、文学表象という3つの観点から考察を深め、彼らのヴェールに包まれた生活に少しでも光を当てようと努めた。ヴィクトリア時代に、召使の数が急増した背景には幾つかの理由が考えられるが、最も重要なのは召使がステイタス・シンボルであったことである。中産階級として見られたい人々は少なくとも一人は召使を雇った。召使の世界にも階級があり、女性の召使の場合、ハウスキーパーを頂点に、レディーズ・メイド、ガヴァネス、乳母と続き、底辺に雑役女中がいた。雇われる家の規模や雇い主の所得によって、その数や賃金は異なったが、賃金表には謎の部分も多い。仕事着は女性の場合、自身で用意する事が期待されることも多かった。当時の写真はあたかも彼らの衣服が白か黒といった印象を与えがちであるが、イギリスの博物館が所蔵するメイドの衣服や、アーサー・マンビーの日記におけるハンナ・カルウィックの衣服への言及はメイドの衣服としてライラック色のコットン・プリントのドレスも当時一般的であった可能性を示唆している。文学表象としての召使いを吟味するにあたって、ヴィクトリア朝小説4作品を取り上げた。女性の召使は欲望の対象として見なされがちであるが、主人の話し相手から結婚の対象となったり、情報提供者としての役割を与えられ、プロットにひねりを加える場合もある。文学テクストに描かれる召使が現実社会における召使とそう違わないことから、それだけ召使が作家にとって身近なものであったと言う事ができる。召使いの登場は小説にリアリティとファンタジーの両方をもたらしている。召使いが主人と結婚することは現実世界においては滅多に起こらないことであり、階級差のある男女の交際や結婚がいかに困難を極めたかはハンナ・カルウィックとアーサー・マンビーの事例が鮮明に物語っている。
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