1.ヘッケルの「生物学的一元論」と同時代に、他の原理を用いて世界を一元的に解釈する方法を提示したのが物理学者のエルンスト・マッハである。本年度はマッハの「要素一元論」を検討しながら、本来世界を一元的に解釈しようとする一元論が複数存在する事実を指摘し、「一元論に一元論はありえない」という原理的茅盾を指摘した。また、20世紀の世界がますます多元化、多極化、複雑化する中で、その重荷から開放されるために一元論が求められたのではないか、という分析を行った。 2.ヘッケル一元論の影響が文学にどのような影響を及ぼしたのかについて、フリードリヒスハーゲン文芸クライスの中心人物の一人であるヴィルヘルム・ベルシェの綱領的論文「ポエジーの自然科学的基盤」を詳細に分析し、ベルシェの言う自然科学的ポエジーとは何を意味するのかを考察した。べルシェはフランス自然主義のゾラを意識しながらも、病的なものが重視されるフランス自然主義とは違う道を模索しようとしていた。楽観的な進化論に基づいた「健康なリアリズム」を求めるベルシェの理論はしかし、単なる机上のものにとどまるのではないか。少なくともベルシェ自身に彼の理論を体現したポエジー作品は見当たらない。「健康なリアリズム」に高いポエジーの質を求めることがはたして生産的かどうか、深い疑義を呈してベルシェを批判した。 3.ヘッケルではなくマッハ一元論は、のちのヴィーナー・モデルネの作家たちに深甚な影響を及ぼした。とくにヘルマン・バールを通してホフマンスタールに至るマッハの影響を跡付け、ホフマンスタールの散文作品を分析することによってマッハの要素一元論が自我そのものを解体した「チャンドス的」状況の射程を測った。
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