平成17年度に行なった研究は、以下の4点に纏めることが出来る。1)第1次大戦後のイタリア併合から現代に至る南チロルの政治・社会・文化についての文献の渉猟。特に、"Das 20. Jahrhundert in Sudtirol"(Gottfried Solderer編、5巻本)と現地のドイツ語日刊紙Dolomitenの分析に力を入れた。2)作家ハインリヒ・マンが南チロル滞在中に書いた小説"Professor Unrat"(1905)の研究。この小説は二つの民族の狭間に立たされた人間の社会的心理を背景にして描かれており、イタリアとドイツ両支化のハインリヒ・マンの内面での衝突を契機として成立したものである。3)戦前から戦後南チロルの文学を担った第1世代の代表者で「南チロル文学の父」と呼ばれたFran Tumlerの文学、とりわけ、イレデンタ運動の指導者チェザーレ・バッティスティを描いた彼の小説"Aufschreibung aus Trient"(1965)の分析。4)現地に赴き、ブレンナー・アルヒーフ所長のJohann Holzner教授の指導を仰いだ。同時に、現代南チロルのドイツ語文学を代表する作家であり、ドイツ語圏とイタリア双方で高い評価を受けている作家Joseph Zodererにインタヴューした。半日以上に及ぶこのインタビューの中で、Zodererは私を自宅に招き、彼の一つ一つの作品の成立の背景、彼の南チロルの中での立場、私小説的な彼の創作に対する姿勢を語ってくれた。
|