研究概要 |
2007年度の本研究計画においては,第一に,近年のドイツで唱えられている「健全なナショナリズム」をめぐる議論について,主としてジャーナリスティックな言説のなかから資料を収集した。第二に,戦後ドイツの文化・社会にとってきわめて重要なモティーフである<過去の清算>の問題が,過去10数年のあいだに<記憶>論として組み替えられていることに注目し,その理論的基盤の考察を開始した。同時に,ベルリンのユダヤ博物館及びホロコースト記念碑に象徴される<記念碑>的な記憶装置についての議論を追った。第三に,反ユダヤ主義の現代的な現象を,一方で理論的に考察するとともに,他方でマクシム・ビラー,バルバラ・ホーニヒマンといった<ユダヤ系>であることに積極的意義を打ち出している作家の営為と対照させて具体的に観察した。そして第四に、トルコ人作家フェリドゥーン・ザイモグルの作品から,在ドイツ・トルコ人のアイデンティティと社会的統合について観察した。とりわけ在ドイツ・トルコ人女性の社会的位置と自己規定についての言説に関する資料を集めその検討を行なった。 以上の研究のための資料収集を行ないその検討を進めると同時に,内外のドイツ現代文学・文化研究者と交流して議論を深めた。 研究成果を2007年度内に論文のかたちで出すことはなかったが,ザイモグル作品の翻訳紹介や研究会での議論によって研究を継続し,おおいに深化させることができた。
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