本研究は、十九世紀イギリスの児童文学-雑誌読み物、宣教文学、冒険小説、家庭小説など-における、アングロ・インディアン(在印英国人)の子ども像を抽出し、イギリスと植民地インドの歴史的関係のコンテクストにおいて、二つの文化の狭間に宙吊りにされた子どもたちの文化変容の過程、そしてその経験がより広い文化現象のなかにどう位置づけられるかを探るものである。本報告書で分析の対象とした作品は、フランシス・ホジソン・バーネットの『小公女』、『秘密の花園』、ルーマ・ゴッデンの『河』、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』であるが、それと同時にその背後に存在した、いまはもう忘れられた作品、『六歳から十六歳』『女王さまのために』『黄金の沈黙』との相互関係も考察した。さらに、現代の作品である『煙の中のルビー』、『バラの構図』などにも言及し、アングロ・インディアンの子どもという設定が、現実的なものから文学的装置となっていく過程を追った。 この研究はまた、異人種間のみならず、男性・女性、異なる階級間、おとな・子どものあいだに働いている不均等な力関係をも明らかにしていくことになる。今後もさらに、ゴッデンのほかの作品や、M.M.ケイ、ポール・スコットなどアングロ・インディアンであった人々の作品や、声を上げ始めたジャミラ・ギャビンなど、インド人作家の作品を通して探っていきたいテーマである。というのも、21世紀にはいっても、なおかつオリエンタライズされた「インド」イメージは廃れていないからである。
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