研究概要 |
今回の科学研究費補助金の申請時に平成17年度の研究計画として申告したのは、19世紀ドイツ・フランスにおける精神分析学の動向と、精神病理学的な症例研究を調査・研究することだった。それにもとづき夏期休暇を利用してドイツ・マールブルクのゲオルク・ビューヒナー研究所を訪れ、平成18年2月に刊行が予定されていたビューヒナー全集第12巻『ヴォイツェク』の最新版のテクストを精読し、精神病と犯罪責任能力をテーマとしたこの作品に対するマールブルク実証派の見解を参照した。またマールブルク滞在中にフランクフルト大学に出向いて精神分析学、精神病理学関係の資料を収集し、専門研究者と面談を行う機会にも恵まれた。この海外研修の成果は次年度日本ビューヒナー協会の研究誌「子午線」、あるいは日本独学会機関誌「ドイツ文学」に投稿する予定である。 次に天才的芸術家と精神「病理」という大きなテーマの一環として、平成17年度前期は宮沢賢治とビューヒナーの比較論的考察に取り組んだ。その成果にあたるのが、共著『言語と文化の饗宴』に収められた拙論「蒼穹を振り仰ぐ阿修羅像-宮沢賢治、そしてゲオルク・ビューヒナー」である。この論文は分裂質的性格に特有の絶対への志向性(メシア志向)から、この両者の思想の変転を分析したものである。平成17年度の他の二点の業績は、いずれも平成15,16年度に科学研究費補助金を支給された研究課題「ビューヒナー文学のテクスト生成研究」にもとづく業績である。そのうちドイツのビューヒナー年間に掲載された論文「『ダントンの死』に見られるゲオルク・ビューヒナーのイデオロギー的な位置」(邦訳)は、ドイツのビューヒナー研究者から一定の反響を得ることができた。
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