研究概要 |
平成17年度から19年度にかけて発表した研究成果の概要を以下に記すこととする。 1.「実証の藪を透かし見る」シリーズ論文の2,3(日本ビューヒナー協会機関誌「子午線」第五号、第六号)は、ビューヒナー研究史上画期的な意味を有する、ビューヒナー研究所(ドイツ、マールブルク)の全集版(『レオーンスとレーナ』、『ヴォイツェク』)の新たなテクスト解読を網羅的に紹介し、テクスト・クリティーク史におけるそれらの意義と問題点、ならびに同研究所が提起するビューヒナーの作品像について詳細に論じた。 2.研究書「ゲオルク・ビューヒナー-国際的受容への新たな視角」は、2004年ナッシュビル(アメリカ合衆国)で開かれた国際ビューヒナー・シンポジウムの報告集である。ここに収録された「日本におけるビューヒナー文学の受容」は、歌人岡井隆の歌集『ヴォイツェク 海と陸』を取り上げ、日本的美学の独自性を論じた研究報告であり、シンポジウムでも活発な議論の対象となり、おおいに好評を得た。 3.ドイツの「ビューヒナー年鑑」に掲載された論文、「『ダントンの死』におけるビユーヒナーのイデオロギ的な位置」は、従来看過されてきたこの作家の理想主義的な側面を実証的に裏付けるものであり、ドイツのビューヒナー研究者からも評価を得ることができた。 4.ビューヒナーのドラマを改作したアレクセイ・トルストイの戯曲『ダントンの死』の翻訳は、既訳が読書人の目に触れることがほとんどなくなっているだけに、ロシア文学関係者からも一定の反応が寄せられている。 5.著書『言語を文化の饗宴』に収められた「蒼穹を振り仰ぐ阿修羅像-宮沢賢治、そしてゲオルク・ビューヒナー」は、分裂質的性格に固有の絶対への志向性(メシア志向)から、この二人の作家の思想的遍歴を分析したものである。
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